当院の患者さんに注意してほしい伝染病:バベシア症

バベシア症とは

吸血したマダニ 猫にも吸血するマダニ

マダニの吸血によって感染する病気です。
日本ではバベシア・ギブソニ:Babesia.gibsoniおよびB.canisの2種類が犬バベシア症を引き起こしますが、臨床的に問題となるのは病原性の強いB.gibsoniです。そして山口県、特に周南市はB.gibsoniの常在流行地です。

潜伏期間はB.gibsonで2〜4週間ほどといわれていますが、実際にはそれより早期に発病しているのではないかと思われる事例も多々あります。

感染ルートと媒介(ベクター)

マダニの吸血によって感染します。B.gibsoniのベクターとしてフタトゲチマダニ、ヤマトマダニ、クリイロコイタマダニ、ツリガネチマダニが知られていますが、主なベクターのフタトゲチマダニ、ヤマトマダニは全国的な分布でごく普通に犬に付着する種です。一方B.canisは沖縄にしか見られないのはベクターであるクリイロコイタマダニは海外では広く分布するものの、日本では沖縄での犬の優勢種です。しかし、近年九州や中国地方での生育が確認されています。これは地球温暖化が関与しているのか、犬の往来の活発さによるのかは不明であります。山口県では岩国に米軍基地があるためか、沖縄からのクリイロコイタマダニの侵入リスクが高いため注意したほうがいいかもしれないです。現に岩国の動物病院ではB.canis感染を診断したことがあるというコメントもありました。

疫学

日本におけるB.gibsoni感染症の発生状況(1994,大西らによる) バベシア症は西日本を中心とした疾患です。中国地方では山口県で多発します。県内でも特に下関市から美祢方面にかけての地域と、周南地域、玖珂〜岩国地域で多いようです。
当院の周辺のローカルな話では、周南緑地公園、大華山、金剛山〜徳山動物園裏、などを中心とした周囲、結局どこも危ないんですが、濃厚感染地域ですので、非常に注意が必要です。
全国的な話となると、大西らの全国のバベシア発症例の全国調査(1994)によると、当時で北は青森まで発症例を確認しています。これは発症例の犬種として土佐犬やアメリカンピットブルテリアなどの闘犬種が多く認められたため、伝播の関与に闘犬の移動がキャリアとなることを示唆しています。

マダニの生態

マダニ類は卵、幼ダニ、若ダニ、成ダニの4発育期を持ちます。そして吸血は幼ダニ、若ダニ、成ダニで可能です。マダニは各発育期で1週間程度宿主に寄生して吸血して地上に落下して脱皮、産卵を行います。
マダニは各発育期がそれぞれ異なる宿主に寄生する3宿主性です。脱皮して次のステージになったマダニは、地上の草の根元や岩陰などに待機して宿主の発した熱、CO2、振動などを感知すると草の上に這い上がり、通過時に寄生します。成ダニは飽血、落下すると地表に産卵してそのまま死亡します。したがってマダニの宿主上での寄生期間はおよそ3週間ですが、待機期間を含めると1世代1年以上にもなりうります。この相互関係(発育環)には宿主(動物)と環境(草や石のある地面)さえそれば、都市部の小さな公園や、住宅内の庭でも完遂可能です。
それゆえ、マダニ汚染地域を生活環境に持つワンちゃんはほとんど逃れられないことであり、バベシア症のリスクはマダニ次第ですから、予防が非常に大事であるのです。

マダニのライフサイクル

感染

マダニ内でのバベシアの発育は省略しますが、マダニの吸血は宿主に寄生すると、口部にある鋏角で皮膚を切り裂き、口下片を差し込み、セメント様物質を分泌して宿主に固定されます。その後抗凝固物質や抗炎症物質を有する唾液成分が、宿主の局所反応を抑制します。その間に唾液分泌と吸血は交互に起こします。吸血刺激のスポロゾイト(バベシアの幼虫みたいなものw?)の増殖のタイムラグを考慮すると、マダニ寄生後2日目以降が原虫伝播のリスクが高くなるようです。またマダニの吸血以外の感染ルートとしては、実験的であるが胎盤感染や輸血など感染血液の直接移入による感染も成立するといわれています。

臨床症状

独特の尿色(血色素尿) バベシア症のおもな主徴として発熱、貧血、脾腫、黄疸(尿色の変化)などです。元気や食欲の低下は年齢や体力によって異なるので不特定な症状と思われます。
発生率の非常に高い兆候はビリルビン尿(92%)、貧血(87%)です(当院調べ)。
経験的にはまず尿色の変化が起こります。これは再発する時も体調不良の前にほぼ認められます。
血液検査所見としては血小板減少(98%)貧血(87%)がほぼ全てに見られます。しかし通常は血小板減少と貧血の場合はエバンス症候群という免疫系の血液疾患を疑うのですが、バベシア症流行地だけは事情が違いますので注意が必要です。
健康診断などで出血傾向のないワンちゃんが血小板減少の数値が見られたならマダニ咬傷歴を思い出してください。キャリア(感染して無発病)と言う可能性もあるからです。

診断

血液塗抹検査で確認されたバベシア原虫(B.gibsoni矢印) 血液検査において診断可能です。決しておしっこが濃いだけで診断治療を受けないでください。検査では貧血と血小板減少が高確率で見られます。時には黄疸も認めます。またBUNが高値を示すと腎機能の低下を示唆しますのでバベシア症の合併症として予後がよくないこともあります。
血液検査では血液塗抹というものを作成し、バベシア原虫の確認を行います。また顕微鏡検査で判断がつかないときは抗体価測定やPCR法による遺伝子診断により感染を確定することも可能ですが、即時性に欠けるため、治療薬の診断的投与の結果のほうが迅速かもしれません。
また、血清イヌCRP検査は炎症の状況を把握する非常に感度のいい検査です。これによってCRP値が正常なら検査上の問題があっても経過観察として無処置とすることも実際に遭遇します。

治療

バベシア症の治療薬

ジミナゼン(商品名ガナゼック) ジミナゼン(商品名ガナゼック)
わが国でのバベシア症の先駆的治療薬で駆虫効果は高く、速攻性もあります。副作用は発現率は低いものの小脳出血と注射部位の疼痛と硬結が問題に。従来の投与法では副作用死のケースも見られたのですが、当院ではそれらの課題を克服するため低用量複数回に分ける治療法を実施、安全に多くの効果をあげています。しかし低用量治療では稀に薬剤耐性(効かないこと)の症例を生じる可能性があり、ドラスティックな判断が必要になります。

クリンダマイシン(商品名ダラシン、アンチローブ)
抗菌薬ですが抗原虫作用をもちます。安全性が高いものの文献的にも赤血球系パラメーターの回復時間をみる限り非常に緩やかであるため、急性期の治療というより再発防止時期や慢性期の軽症に対する使用がベストと考えてます。

ST合剤(商品名トリブリッセンほか)
クリンダマイシンと同等の使用法が主です。近畿圏のバベシア治療ではクリンダマイシンよりST合剤のほうが再発防止に好まれる傾向です。

クリンダマイシン、ドキシサイクリン、ニトロメダゾールの多剤併用療法
これら3剤によって急性期に副作用、耐性を軽減する目的で治療を行う。またこの一部をアジスロマイシンに変更して再発予防を好む獣医師もいる。これらの薬剤が各々の欠点を補っているのではないかと考えられていますがこれも再発は皆無ではありません。

アドバコン(商品名MEPRON)
近年注目されている抗原虫薬ですが、国内販売がありません。人間のマラリア治療薬です。経口薬(飲み薬)でしかも高価などの特徴があるため、現在の使用頻度は限られています。

対症療法

バベシア症治療において点滴を受ける症例 輸血は貧血の治療に一番即効的な支持療法です。しかし副反応などのリスクと相殺して考慮されるべきであるため、その選択は必要最小限と考えます。バベシア症では基本的に治療による改善が約束される病気ですがそれまでの経過中に生命の危険が危ぶまれるときにのみ選択されるべきです。
副腎皮質ホルモンは通常必要ありませんが、激しい血管内溶血や症状が重篤な場合、またはジミナゼン高用量投与で小脳出血が懸念されるときのみに使用されます。
静脈内輸液(いわゆる点滴)は貧血の時には慎重さが必要ですが、可能な限り実施するべきです。貧血していますが当然病気である時点で何らかの脱水状態が予想されますので、治療の成否は点滴が重要だと当院では考えています。

経過

当院ではほとんどがジミナゼンを使用するのでそれを紹介しますと、治療を開始すると一次的に貧血は悪化します。しかし血小板数が上昇していれば治療は良い方向であることがほとんどです。そして貧血はおおむね4〜7日ごろには治療前もしくはそれ以上に復帰しています。その後は経過を見るか、再発防止の治療薬を投与します。
バベシア症の治療の悩みの一つが再発です。ジミナゼン治療の場合、再発は3〜4割の症例に見られ、この多くは治療終了から1ヶ月後がほとんどです。再発防止のため様々な投薬が試みられていますが、それでも少数は再発してしまうところに今後の治療法の研究が待たれます。
またキャリアになった場合、大きな生体ストレスがかかる交通事故や抗がん剤投与などでの日和見的な再発事例を経験しています。よってバベシア症の既往歴は主治医に告げておく必要があります。

予後

当院の2009年までのデータですが、再発率は35%(83/237例:当院で再発したものに限る)でした。再発回数は最大で5回再発した症例を経験しています。
明らかにバベシア症を原因として死亡した例は237例中13例(5.4%)でした。内訳は来院時腎不全5例、激しい血管内溶血2例、IHAへの移行4例などの合併症を持つものが多く認められました。ジミナゼンに無反応で症状の改善が認められなかった症例は2例でした。

予防

予防はマダニが吸血する前に駆除できる薬剤の投与が推奨されます。
当院および周南地区ではマダニの生活感を考慮してフィプロニル製剤(例:フロントライン:メリアル)であれば1カ月に一度の投与が適切です。

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