リンパ腫

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リンパ腫とは、血液のがんの一種で、リンパ節などにあるリンパ球ががん細胞になってしまった病気です。 当院ではご家族のとりえる選択肢を提示したうえで、ご家族様に寄り添う医療を提供します。

治療までの流れ

リンパ腫とは

リンパ腫とは、血液由来のリンパ球がガンに変化した血液の腫瘍で、犬や猫の血液腫瘍で多いのがこのリンパ腫という腫瘍です。犬の腫瘍全体の20%程度を占めています。猫のリンパ腫は猫白血病ウイルス(FeLV)、猫免疫不全ウイルス(FIV)感染との関連もあると言われています。

リンパ腫は解剖学的分類・免疫表現型による分類・腫瘍細胞の大きさによって悪性度の低いものと高いものに分けられます。また、病気の進行度によって5つのステージに分かれます。分類やステージングによって予後や治療方法も異なるため、しっかりとした検査が必要です。

リンパ腫とは

分類

解剖学的分類

この腫瘍の発生場所は様々で、タイプによって現れる症状も違ってきます。

  • 多中心型リンパ腫
    犬で最も発生が多いタイプです。通常体表のリンパ節が腫れることが特徴です。(赤丸:体表リンパ節)

    多中心型リンパ腫

    体表リンパ節が腫れています

  • 消化管型リンパ腫
    犬で2番目に多く、猫では最も多いタイプです。多くが小腸から発生するため、嘔吐や下痢、体重減少など慢性的な消化器症状を示します。

  • 縦隔型リンパ腫
    胸にある縦隔リンパ節や胸腺が腫れてきます。腫瘤と胸水による呼吸困難が見られることが多いです。

  • 皮膚型リンパ腫
    皮膚や粘膜に病変を形成します。脱毛や鱗屑から進行することで潰瘍を伴った結節を形成します。

    皮膚型リンパ腫

    肛門周囲に病変部を形成

  • その他(肝脾・腎臓・鼻腔など)
    猫では鼻腔内リンパ腫も多いです。食欲の低下、体重減少などの非特異的な症状が出ます。

免疫表現型による分類

リンパ腫の免疫表現型はB細胞性とT細胞性、NK細胞性に分かれます。

腫瘍細胞の大きさによる分類

腫瘍細胞の大きさが大きい(低分化)ものが高悪性度に、小さい(高分化)ものが低悪性度に分けられます。

  • 低分化型リンパ腫

    低分化型リンパ腫

    中型から大型のリンパ球が多数認められる

  • 高分化型リンパ腫

    低分化型リンパ腫

    小型のリンパ球が多数認められる

ステージ分類

  • ステージⅠ 病変が単一のリンパ節または単一臓器にある
  • ステージⅡ 複数のリンパ節に病変部がある
  • ステージⅢ 病変部が全身のリンパ節にある
  • ステージⅣ 肝臓や脾臓に病変部がある
  • ステージⅤ 血液や骨髄に腫瘍細胞が出現
  • サブステージa 全身症状がない
  • サブステージb 全身症状がある

診断

全身状態の把握のために血液検査、レントゲン検査やエコー検査などの画像検査を行い、病変部の細胞診検査を行うことで診断します。また、病理検査と遺伝子検査(クローナリティ検査)を行うことで免疫表現型の判定をします。これら検査の結果により予後判定や治療方針の検討を行います。

①細胞診

病変部に細い針を刺して細胞の形態を確認します。麻酔をかけずに行うことができます。

細胞診

②画像検査

  • 腹部超音波検査

    腹部超音波検査

    消化管型リンパ腫
    腫瘍によって十二指腸の正常な構造を保っていません

  • 腹部超音波検査

    腹部超音波検査

    縦隔型リンパ腫
    腫瘍により胸に水が溜まっています

③遺伝子検査(クローナリティ検査)

免疫表現型(B/T/NK細胞)を調べます。

④病理組織検査

病変部の一部の組織を採ってきて調べることで確定診断を行います。

⑤摘出

病変部へのアプローチが難しい場合、手術によって病変部を摘出します。

治療

リンパ腫は化学療法が比較的奏効するため、主な治療方法は抗がん剤による多剤併用の化学療法で、当院では様々な抗がん剤を使用しています。複数の抗がん剤を交互に投与することで治療を行なっていきます。使用する薬によって違ってきますが、1週間に1度、約6ヶ月の通院治療を行います。リンパ腫のタイプにもよりますが、奏効率は90%以上、奏功期間はだいたい10ヶ月と言われています。

犬のリンパ腫は比較的抗がん剤が効きやすいと言われていますがその一方で、抗がん剤による嘔吐や食欲の低下などの副作用が認められる場合もあります。その場合は皮下点滴や入院による治療などの対症療法を並行して行います。抗がん剤の投与はその時の体調を見て飼い主様と相談をしながら進めていくため、投与の延期や抗がん剤の種類の変更を行うこともあります。

病変部が一部分に限局している場合は手術で切除を行ったり、放射線治療を抗がん剤と併せて行う場合もあります。

治療
治療

抗がん剤には注射の薬や飲み薬があります。

予後

リンパ腫のタイプにより異なります。
犬の多中心型の高悪性度リンパ腫では、治療を行わない場合病気が進行して全身に浸潤するため、4週から6週で致死的な状態に進行してしまいます。また、消化管型のリンパ腫の場合は、抗がん剤への治療反応は悪いと言われています。しかし、治療を行うことで寛解することも期待できます。寛解状態は腫瘍による症状がなく元気な状態のことをいいます。治療の目的は長く寛解の状態を保ち、わんちゃんやねこちゃんの生活の質(QOL)の向上を行うことです。しかし寛解は根治とは異なり、体に腫瘍細胞が全くない状態ではありません。残念ながら寛解後再発してしまうこともあります。

一方で、低悪性度の場合、がんの進行が遅いため無治療で数年生きることもあります。症状の緩和治療を行なっていきます。

貧血

貧血になった場合、口腔粘膜の色が白色になり、低酸素のため食欲不振や元気がないなどの症状が出ます。主な原因は下の表にまとめています。診断を行うために、血液検査やレントゲン検査、腹部エコー検査などの画像検査が必要であり、疾患によっては麻酔をかけて骨髄の検査が必要になることもあります。

赤血球・骨髄の異常 慢性疾患による貧血 全身疾患に随伴 その他
免疫介在性貧血 腫瘍性疾患 腫瘍性疾患(リンパ腫や白血病など) 中毒(玉ねぎやニラなど)
骨髄異形成症候群 慢性感染症 など 腎疾患・肝疾患 妊娠 など
非再生性貧血 など 内分泌疾患
感染症(バベシア症など)

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

免疫に関与する抗体が血管内や脾臓、肝臓などで自身の赤血球を壊すことにより貧血が起こります。中年齢の犬で多く発生し、雄に比べて雌での発症が多いとされています。
特発性のIMHAと感染症や腫瘍に随伴して起こる二次性のIMHAがあります。

治療は、副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤による免疫抑制療法を行います。治療の導入後は、半年程度かけて薬を徐々に減らしていきながら維持療法を行います。そのため、比較的長期の通院治療が必要となります。また、治りにくい場合は手術で脾臓を摘出することもあります。予後は比較的いいとされています。

免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

骨髄疾患

骨髄で起こる病気の一つに白血病があります。
白血病は、骨髄中の造血系細胞が腫瘍化したもので、腫瘍化する白血球の種類(リンパ球・骨髄球)と進行度(急性・慢性)によって分類されます。

猫ではFeLVの感染が急性リンパ芽球性白血病(ALL)の発症に関与していると言われています。

臨床症状・検査所見

急性の白血病は一般的な症状である食欲不振、元気がない、体重減少が認められ、慢性白血病は無症状のことが多いです。

血液検査ではリンパ球が顕著に増加しており、非再生性の貧血や血小板の減少が認められます。白血病の診断は、麻酔をかけて骨髄に針を刺すことで骨髄の細胞を採る検査(骨髄穿刺)により行なっており、当院では骨髄検査を行なっています。骨髄で採れた細胞は外部の検査センターに出して特殊染色を行なったり、遺伝子検査を行うことなどで診断が可能になります。

リンパ球が多数認められる(CLL)

リンパ球が多数認められる(CLL)

中型から大型のリンパ球の増殖(ALL)

中型から大型のリンパ球の増殖(ALL)

治療・予後

急性リンパ芽球性白血病(ALL)の治療の第一選択はリンパ腫と同様、化学療法を行います。化学療法への反応はいいですが、生存期間は犬では4ヶ月ほど、猫では2ヶ月ほどと予後は不良です。慢性リンパ芽球性白血病(CLL)は無症状で末梢血のリンパ球増加で診断されることが多いため、治療の必要性はありません。無治療での経過観察を行います。リンパ節が腫れてきたり、食欲不振などの症状が出てくる、貧血や血小板の減少などの検査所見が見られるようになった場合に化学療法を始めます。生存期間は犬では進行が遅いため1年程度、猫は6ヶ月程度と言われています。