心臓病

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ヒトと同様、動物でも心臓病は一般的ですが、ひとことに心臓病といっても色々なタイプの病気があります。

心臓病とは

心臓病には、心臓の弁の問題が引き起こすもの、心臓の筋肉(心筋)の問題が引き起こすもの、その他の原因(先天的なものや感染症など)が引き起こすものに大きく分けられます。

心臓の弁の問題:僧帽弁閉鎖不全症
心臓の筋肉(心筋)の問題:拡張型心筋症、肥大型心筋症
その他の心疾患:先天性心疾患(動脈管開存症など)、感染性(フィラリア症)

心臓病とは

心臓の弁が原因となるもの

心臓の弁の問題として代表的なものが僧帽弁閉鎖不全症で、犬の心臓病の中でも最も一般的なす。中高齢以降の小型犬に多く、日本では、チワワ、マルチーズ、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、シー・ズー、パピヨンなど多くみられます。心臓の内部にある弁に変性が起こることで、通常は一方向に流れる血液が一部逆流してしまいます。

心臓の筋肉が原因となるもの

心臓の筋肉自体に異常が生じる病気として心筋症がありますが、いくつかのタイプに分けられています。拡張型心筋症は心筋が薄く伸びてしまい、収縮力の低下を起こす病気で、ドーベルマンなどの大型犬で多く見られます。肥大型心筋症は猫の心臓病として一般に見られるもので、心筋の壁が厚くなり、心臓の内腔が狭くなることで血液の循環が悪くなってしまいます。

その他が原因となるもの

その他の心疾患として先天性の病気も見られることがありますが、代表的な先天性疾患として動脈管開存症(PDA)があります。動脈管というのは胎児期に見られる構造物で、通常出生後に自然に閉鎖しますが、これが閉鎖せず残ったままになると循環に異常を生じます。また、感染性の病気として、フィラリア症では成虫が心臓や肺の血管に寄生することで、心臓の機能障害を起こすことがあります。

臨床症状

初期には症状はあまり現れませんが、病気が進行するに従って症状が現れてきます。

一般的に心臓病の初期では症状はほとんどありませんが、徐々に病気が進行することで症状が現れるようになります。初期の心臓病で見られる症状としては、活動性の低下、疲れやすさ、咳などが挙げられます。

病気が進行すると、心臓のポンプ機能が低下することでうっ血性心不全と呼ばれる状態になります。心臓は右心と左心、心房と心室の4つの区画に分けられ、心臓を中心として2つのループ(体循環と肺循環)を形成しています。右心系の機能が低下すると全身から、左心系の機能が低下すると肺から、それぞれ血液が心臓へ戻ることができなくなり、うっ血が生じます。

初期に見られるもの:活動性の低下、疲れやすさ、咳 など
進行した心臓病で見られるもの:うっ血性心不全、右心不全:腹水や浮腫など。左心不全:肺水腫や胸水など

心臓病とは

診断の流れ

主に聴診、レントゲン検査、エコー検査により診断を進めます。

①聴診

多くの心臓病では、血液の逆流や乱流による心雑音が聴取されます。心雑音にはいくつかの種類があり、心雑音の種類や犬種、年齢などからある程度病気を推測することが可能です。しかし、聴診だけでは正確な診断や治療の必要性を判断することが出来ないので、以下に示すような追加検査が必要となります。また、猫の心臓病では、心雑音を伴わない場合があるため、注意が必要です。
心雑音に加えて、呼吸音の異常が確認される場合や、咳・呼吸困難・元気消失・食欲低下などの症状が見られる場合には、迅速な診断、治療介入が必要となります。

②胸部レントゲン検査

胸部レントゲン検査は肺や心臓の評価に有用です。
多くの心臓病では進行と共に心拡大が見られるため、レントゲン検査で心臓のサイズを確認します(図1)。また、咳や呼吸困難が見られる場合、心臓病以外の疾患が隠れていることもあるため、その評価も行います。

非心臓病犬

非心臓病犬

僧帽弁閉鎖不全症犬

僧帽弁閉鎖不全症犬

図1.非心臓病犬および僧帽弁閉鎖不全症の犬の胸部レントゲン像
僧帽弁閉鎖不全症の犬では心陰影の拡大が認められる。レントゲンでの心臓のサイズの評価表として椎骨心臓スコア(VHS)が用いられる。
犬種により基準値は異なるが、一般にVHSが10.5以上で心拡大ありと評価される。
(左:非心臓病犬(VHS=9.2)、右:僧帽弁閉鎖不全症犬(VHS=11.0))

③超音波検査(エコー検査)

心臓病の診断や病態評価に最も有用な検査として超音波検査があります。超音波検査は心臓の内部や血液の流れを細かく評価できるため、ほとんどの心臓病の診断が可能です。
レントゲン検査と同様に、超音波検査でも心臓の拡大を確認することが出来ますが、超音波検査では心臓の内部を見ることが出来るため、拡大している場所や程度の詳細な評価が可能です(図2)。

超音波検査(エコー検査)
超音波検査(エコー検査)

図2.非心臓病犬および僧帽弁閉鎖不全症の犬の心臓超音波検査像
僧帽弁閉鎖不全症の犬では、左心房および左心室の拡大が認められる。
LA: 左心房、LV: 左心室

僧帽弁閉鎖不全症の診断は、僧帽弁での左心室から左心房への血液の逆流(カラードプラ検査でのモザイクパターン)を確認することで行います(図3)。
僧帽弁閉鎖不全症の重症度の判断は、左心室や左心房の拡大の程度を評価することで可能です。超音波検査ではいくつかの測定法を組み合わせて、心臓のサイズを評価します(図4)。また、心臓内部での血流の速度を測定することで、肺水腫の発症リスクを大まかに予測することが出来ます(図5)。

超音波検査(エコー検査)

図3.僧帽弁閉鎖不全症の犬における血液逆流の確認

カラードプラ検査において、正常な血流は青色または赤色の単色で描出される(左図)。僧帽弁閉鎖不全症においては、左心室から左心房へ逆流する血流はモザイクパターン(青色・赤色に加えて、黄色や緑色などが混在した領域)として描出される。軽度の僧帽弁閉鎖不全症ではモザイクパターンは左心房の一部(赤点線で囲んだ領域)のみに認められるのに対し、重度の症例では左心房の全域においてモザイクパターンが認められる(右図)。
LA: 左心房、LV: 左心室

超音波検査(エコー検査)

図4.僧帽弁閉鎖不全症の犬における心臓サイズの評価

左心房-大動脈径比(LA/Ao)の測定(左図)。LA/Ao≧1.6で心拡大ありと評価される。標準化左室拡張期内径(LVIDDN)の測定(右図)。LVIDDN≧1.7で心拡大ありと評価される。

超音波検査(エコー検査)

図5.左室流入血流(E波およびA波)の計測

左心房(LA)から左心室(LV)へと流入する血流はパルスドプラ検査においてE波およびA波として描出される。これら2種類の血流波形の速度やパターンを見ることで、血行動態の評価を行う。E波の上昇は左心房圧の上昇を示唆し、1.2m/s以上の場合は肺水腫を生じるリスクが高いと考えられる。
猫で最も一般的な心臓病として、肥大型心筋症がありますが、この病気では心筋が厚くなることで、循環に問題が生じます。超音波検査では、心筋壁の肥厚を確認することで診断を行います(図6)。

超音波検査(エコー検査)

図6.猫の肥大型心筋症

心筋壁の厚みが5.5~6.0mm以上で肥大型心筋症と診断される。(この症例では心筋の厚みは12.1mm)

動脈管開存症(PDA)では、残存している動脈管や、そこを流れる異常血流を確認することで診断します(図7)。

超音波検査(エコー検査)

図7.犬の動脈管開存症(PDA)

残存している動脈管(左図、矢印)や、同部位を流れる異常血流(右図)が確認できる。

肺動脈狭窄症(PS)では、肺動脈での乱流によるモザイクシグナルや、狭窄による高速血流などが確認できます(図8)。

超音波検査(エコー検査)

図8.犬の肺動脈狭窄症(PS)

先天的な肺動脈の狭窄により、乱流によるモザイクシグナル(左図)や、狭窄による高速血流(右図)が認められる。

犬のフィラリア症の診断は、血液検査で行われることが多いですが、血液検査で感染が疑われる場合には、エコーでの虫体の確認や、心臓の機能評価が重要になります。
また、フィラリア症は肺高血圧を引き起こす疾患としても重要です。肺高血圧症とは、名前の通り肺動脈の血圧が持続的に上昇している状態を指し、フィラリア症の他に、先天性短絡疾患、左心疾患(僧帽弁閉鎖不全症など)、肺疾患など様々な疾患によって引き起こされます。(図9)

超音波検査(エコー検査)

図9.犬のフィラリア症

フィラリア虫体はエコーではイコール状(=)に描出される(左図、赤点線)。フィラリア症による肺高血圧。肺高血圧により右心室の拡大(中央、RV: 右心室、LV: 左心室)、や肺動脈の拡張(右図、点線)が見られる。

④血液検査

一般的な血液検査(血球計算および血液生化学検査)では、全身状態の把握や合併症の評価を行うことが出来ます。また、外注検査では心臓バイオマーカーと呼ばれる、心筋から放出される特殊なホルモンの血中濃度の測定が可能です。犬猫ではANPやNT-proBNPなどのバイオマーカーが測定可能であり、心臓病の早期発見や重症度の判定に利用されています。

⑤血圧測定

ヒトと異なり、犬猫では高血圧が単独で見られることは少なく、心臓病などの基礎疾患に伴う高血圧が多く見られます。そのため、心臓病の治療時には血圧についてもチェックを行い、必要に応じて高血圧に対する治療が行われます。

⑥心電図測定

心臓が拍動するときの微弱な電気活動を波形として記録し、その波形から心臓の状態を把握することが出来ます。不整脈の検出も可能です。

重症度分類および治療
現在、犬の僧帽弁閉鎖不全症と猫の心筋症に関しては、国際的なガイドラインが発表されていますが、まだまだ情報が少なく、個々の患者さんに合わせた治療を検討していく必要があります。
犬の僧帽弁閉鎖不全症の重症度分類については、現在一般に使用されているものとして、2019年に公表された米国獣医内科学会(ACVIM)のガイドラインがあり、推奨される治療もそれに準じて決定されます(表1)(※1)。

心電図測定

表1:ACVIMガイドラインによる犬の僧帽弁閉鎖不全症のステージ分類

推奨される治療に関しては以下のようになりますが(表2)、それぞれの項目について個別にエビデンスレベル(治療の推奨/非推奨に対する、科学的裏付けの程度)が異なるため、それぞれの患者さんに適した治療選択をする必要があります。

心電図測定

表2:ACVIMステージと推奨される治療(犬の僧帽弁閉鎖不全症)

予後

動物の心臓病の予後(病気の経過についての見通し)については、病気の種類や個体差が大きく、また多くの心臓病について、きちんとしたデータが少ないのが現状です。

少し古い報告ですが、僧帽弁閉鎖不全症の犬の心臓死に関するリスク因子として、高齢(>8才)、失神、心拍数(HR>140bpm)、呼吸困難、不整脈、心拡大やE波の上昇などが挙げられています。(※2)

また、この報告で使用されている重症度分類(ISACHC分類)は上述のACVIM分類とは異なりますが、肺水腫などの心不全兆候を呈した犬においては生存期間中央値は9ヶ月(8-15ヶ月)となっています。
肺水腫は、心臓病の動物において見られる重篤な症状の一つで、迅速な治療介入が必要になります(図10)。

心電図測定

図10.肺水腫を発症した僧帽弁閉鎖不全症犬の治療前後の胸部レントゲン像

治療前では肺の後葉(赤点線で囲んだ領域)に肺水腫を示唆する不透過性の亢進(白くなっている)が認められるのに対し、治療後のレントゲン像では肺野の透過性(画像の黒さ)が改善している。

家庭でのチェックポイント

心臓病で見られることの多い症状で、なおかつ家庭での観察が可能な症状としては以下のようなものがあります。

活動性の低下、疲れやすさ、咳、呼吸数の増加、呼吸困難

進行した心臓病や、心臓病の治療中の患者さんでは急な呼吸困難が見られることがあります。安静時の呼吸数が一分間に40回以上というのがよく使われる基準の一つであり、これ以上の呼吸数の増加が見られる場合には、肺水腫などによる呼吸困難の可能性がありますので、一刻も早い受診が勧められます。

1、Keene BW, Atkins CE, Bonagura JD, et al. ACVIM consensus guidelines for the diagnosis and treatment of myxomatous mitral valve disease in dogs. J Vet Intern Med. 2019 May;33(3):1127-1140.

2、Borgarelli M, Savarino P, Crosara S, et al. Survival characteristics and prognostic variables of dogs with mitral regurgitation attributable to myxomatous valve disease. J Vet Intern Med. 2008 Jan-Feb;22(1):120-8.